2.

「無職の何が悪い!」

かつて地球が神々によって、創られたという時代に、邪心の神だけが、一人、神
々と口論した。結局、それで、アダムとイブが生まれ、地球は、邪心の神によっ
て、欲望にまみれた人間という生物を生み出した。
この世の中が、エゴイズムの中で、『大義』など、何だの、きれい事を抜かす平
和主義者によって、偽善者を装い、多くの生命を奪ってきたのは、事実ではなか
ろうか?

「芸術家は、所詮、無職なんだ」

こう開き直っては、もともこうもない。芸術家の多くだって、職を持ちながら、
活動している人もいるだろうし、一人の芸術家として、立派に功績を納めている
ものもいる。

「無職の何が悪い!」

こう口論を始めた邪心の神の気持ちも解らない訳ではない。しかしながら、リス
トラされたり、元々、能力のないフリーター族を見ていると、無職で何も悪い事
など何もない。他人に迷惑をかけなければの話だが・・・。
西暦エイジAF2538年も肩書きだけの無職がほとんどである。
前にも述べたが、サイキッカーという人種は、現在、2004年度から、5億年
後に現れた新しい人種だ。サイキッカー自体、人類が生まれた頃の原始人と何ら
変わりはない。服もみすぼらしい皮服で、衣食住は、全て己の生活力で賄ってい
る。超能力がもし、使えなければ、単なる原始人だ。
サイキッカーは、大きな耳を持ち、聴覚に優れている。目姿は、様々だが、大半
は、緑色だ。体格は、皆小柄で、最大で、1メートル50センチ。サイキッカー
に身長は関係ないと言った方がいいだろう。冬になると、冬眠を始めるため、小
柄な体が長生きの秘訣、つまり、リスなどの生物と同じで、冬眠する事で、40
0歳までの長寿を果たしている。
彼らには、七初兆能力という大きく分けて、7つの超能力を生まれた時から、潜
在能力として、備わっている。開花できないサイキッカーは、この時代に生き抜
く事は、出来ない。何故なら、彼らのような人種よりも、この時代では、奇妙な
生物の集団が、大陸を制覇しているからだ。
主な生物には、羽根が生えた飛ぶことの出来るカンガルー、『アシダ科』、足の
ある飛び跳ねるカタツムリ、『ラオン科』、海鳥から進化したクジラ並の巨大ペ
ンギン、『マシオス』、身長2メートル超の飛べない猛禽、『カルダ』、地下社
会でコロニーを営むウズラの末裔、『ムルク』、4匹ひと組で鳥を襲う極彩色の
甲虫、『ゴブラ』、4枚の翼で標高1万メートルを滑走するツルの子孫、『ベー
ギュ』、クモたちの家畜と化したサイキッカー以外の唯一の哺乳類、『ケタロウ』
、特定の器官を肥大させた異形のシロアリ、『ボーダー』、体長20メートルの
見えないイカ、『サンクルス』など、未来の地球は、人間よりも動物、植物、昆
虫、魚、鳥などが主導権を握っている。
サイキッカー達は、『エンカウントバトル』といった、人類最後の唯一のスポー
ツで、これらの生物をどれだけ狩れるか、競い合っており、これが彼らの文明な
のだ。
すなわち、政治・経済、文化、社会、倫理は、人類以外の生物がコントロールし
ていて、サイキッカー達は、地球において、邪魔で野蛮な畜生扱いされている。
しかし、かえって、それが、未知なる生物達にとっての文明の一端となっている
のは、『アシダ』のボス、『ザルー』が造った『エンカウントバトルコロシアム』
で、醜いサイキッカー達と殺戮を争う事により、全ての生物が活気ずくからであ
る。
エンカウントバトルは、制限時間15分以内にどれだけの格闘を繰り広げられる
か、争うバトルロイヤルであり、参加者は、1試合につき、6名までである。一
名でも、死亡が確認出来たら、試合は終了となり、残った生物全員が勝利者とな
る。一名も死亡しなかった試合は、引き分けとなる。
サイキッカーの七初兆能力は、他の生物にとって、脅威である。彼らは、本能の
赴くまま、超能力を使えるので、殺す事で生じる命の尊さなど、知らない、無垢
な子供と何ら変わらない。ただし、武器が石器で作った石槍しか、扱う事が出来
ないので、理性を持った生物を簡単にあしらう事が出来ない。
道具を使うという概念があまり備わっていないという点で、太古の原始人と変わ
らないのだ。言葉も発する事が出来ず、会話は、手話のみで行われる。しかも、
サイキッカー独自の手話だ。
七初兆能力は、人間浮揚、超催眠、念力、波動、覚醒、創造、時空間操作の七つ
の能力である。
ザルーが、エンカウントバトルコロシアムを造った事で、野蛮なサイキッカー達
は、エクスタシーに満ちた喜びを得るようになった。彼らは、感情がないので、
喜びは、お互いのほっぺを平手でぶち合う事で表現する。
西暦エイジAF2538年までに、地球にどんな天変地異が訪れていたのか、こ
の星の生物の大半が知らない。だが、未来警備隊『サンバルカン』は、知ってい
る。ある時代になって、突然、氷河期が訪れ、地球上の全ての生物は、滅びる。
氷河期がやがて、終わり、地球の海水面が上昇し、巨大な大陸が大陸移動によっ
て、出来上がった2億年後の地球に、新しい生命体が次々と誕生する。
西暦AF2538年は、ラオンの文明長老『ナーニャ』が誕生した西暦AA0年
から、数えて、3億年後、つまり、西暦2004年度から、5億年後の地球の時
代である。
この作品の著者、相葉和彦も、西暦AF2538年に、蝶々の羽根の生えた兎、
『チルマ』として、生まれ変わっている。チルマの小説家として、生まれ変わっ
た相葉和彦は、この時代の唯一の小説家だ。チルマは、芸術に優れている生物で、
地球の歴史にも詳しい。相葉和彦は、苦しい修行を罪ながら、輪廻転生を繰り返
しているうちに生まれた素晴らしい未来人だったのだ。彼は、天界で神となった
後、3億8000万年後に、自ら神の地位を捨て、チルマに生まれ変わった。あ
のイエスキリストも、新しい宗教をこの世にはびこらせるため、チルマに生まれ
変わっている。相葉和彦は、この時代にチルマとして、生まれてすぐ、この作品
『本能』を出版した。何故、彼は、21世紀にもこの作品を出版したのに、西暦
エイジAF2538年にも、この作品を出版したのだろう。全く、運命とは、因
縁のもとに定められたものである。
相葉和彦のチルマとしての名は、『ゲッチュ』。母の名を『マッセ』、父の名を
『グランス』といった。マッセは、絵描きで、グランスは、役者だ。
ゲッチュは、鳥類なので、マッセの胎内から卵として、生まれた。
ゲッチュが生まれた時、マッセとグランスは、

「この子は、文豪として、生まれてすぐ、本を出版するだろう」

「ええ、そうですね。この子の前世もきっと、文豪だったに違いないわ」

両親の言うとおり、彼は、文豪として、わずか、6ヶ月で『本能』を執筆した。
ありのままの地球の歴史を描いた『本能』は、この時代のベストセラーとなった。
この時代には、まともな人類が生存せず、地球という肩書きだけの惑星が、生物
の本能のまま、動いている。
政治・経済、文化、社会、倫理という概念は、生物が生き残るためのモラルに過
ぎない。
例え、きちんとした法廷や政治団体があっても、それは、地上の庭で行われる生
物達の絵空事にしか過ぎない。
野蛮なサイキッカー達が、無益な殺戮を繰り返し、他の生物がそれを鎮圧する。
結局、昔から、地球という星は、殺戮を楽しむ弱肉強食の社会だったのでは、な
いか?
ゲッチュは、そう思っていたが、それは、違う。確かに戦争を始めとする無益な
争いはあったが、21世紀までに人々は、そうした戦争を反省し、お互いに支え
合って、生きてきたし、社会とは、そういった過去の反省を叡智として、未来に
繋いでいくはずだった。
だが、この西暦エイジAF2538年という時代は、どうだろう?
エンカウントバトルは、確かに魅力的だが、生物が生物を殺し合う事に何の意義
があるのか。
ザルーは、こう言う。

「エンカウントバトルは、生物が自然淘汰されないこの社会での唯一のハケ口だ。
よって、この殺戮は、裁判に起訴する事の出来ない認められたスポーツなのだ」

ザルーの言う事に、ゲッチュは、議論の余地もなかった。ゲッチュは、ありのま
まを書くノンフィクション作家だからだ。
単なるノンフィクション作家ではない。未来を予測する事も、地球の全てを書く
事も彼の仕事だ。つまり、西暦エイジAF2538年から先の事も、この本を出
版する前に書いてある。
ゲッチュは、この新時代の地球の生物の主観も描こうと思った。
エンカウントバトルコロシアムを造ったアシダのボス、ザルーを始めとしたアシ
ダ科について・・・




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