其の三:忘れていた夢

2004年1月11日、何度も自分の心の中で批判していた谷昇先生に会いに行
き、話を伺った。先生が経営する劇団を3回行ったり、来たりで止めたり、入っ
たりの繰り返しで、先生自身も僕の事をつっぱねて、断る事もあったが、先生は
新高円寺駅近くにあるデニーズで大切な話をしてくれた。

「何でもかんでも、手を出さずに一つの事に集中しなさい。でないと、どれもか
れも中途半端になるから。相葉君のやってる事は、子供が水ぶっかけっこしてん
のと同じだよ。あれもこれも手を出すから。私を信じてください。私は、相葉君
の性格や様々な状況を理解して、いつも指導してるんだから。相葉君は、大切な
人をなくすとこだったんだよ」

そう、先生がおっしゃった事に何の反論の余地もなかった。しかし、自分は、自
分の全てをかなえたい。元々、僕の作詞が開花したのは、先生のいた劇団で学ん
だのだから。

「4月2日(金)に新人の研究発表会をセシオン杉並で開くから。相葉君は、即
興芝居がうまいから、参加させます」

「月謝は?」

「いらない。いらない。相葉君の経済状況を考えてるからね。私は」

この言葉を聞いた時、僕は忘れていた夢が蘇ったような気がした。そして、大切
な先生を裏切った想いに悔やんだ。いっその事、かなわない芸能界の夢を28歳
といういい歳こいて、引きずるよりは、僕の両親が勉強して、福祉関連の資格を
取りなさい。そうすれば、一生食っていけるから。両親が勧めたのは、作業療法
士や理学療法士という資格を取るための専門学校に通わせる事だった。しかし、
自分には、芸能界を極め、ハリウッドで映画を撮るという大胆不敵な野望がある
ために、両親と反発していた。そんな矢先に、月謝ただで、舞台に上がらせてく
れる先生にこの上なく、感謝し、後で劇団で先生の愛弟子の歌を見学していた時
に思い出した『忘れていた夢が蘇ったような気がして』感動のあまり、涙があふ
れそうになった。いきなり、男が泣き出すなんて、みっともないような気がして、
必死に涙を抑えていた。先生の愛弟子の水木瑠乃さんは、浅草みなとという歌を
歌っていた。僕が劇団を離れていた間に彼女は、成長した。その浅草みなとの作
詞を紹介しよう。

浅草みなと
    作 幹政人
    曲 谷昇
    
たまにはいいじゃない 浅草辺り
今夜は二人のラブタイム
どこへゆくのか
墨田の流れ
赤い陽揺れる 屋形船
彩る夜空に 燃える夢

夜風がくすぐる 襟元辺り
何だか今夜は酔いそうよ
甘さ切なさ
花街風情
ネオンにおぼれ 夢ん中
今夜はこのまま 帰れない

夜更けのベンチに 座ればいつか
素肌が貴方を引き寄せる
燃えたぬくもり
粋ずく波よ
二人の愛の情け舟
今夜はいずこに 着くのやら

この歌は、ちなみにこれから谷昇先生が世に出す歌で、僕も劇団に所属してた頃
は、何度も歌ってた。悪い事には、先生の著作権も考えないで、自宅でこの歌を
レコーディングし、東芝EMIにデモテープを送っている。天罰が下ったかどう
かは、別にして、力量のなく、先生の劇団も辞めたところだったので、一次審査
も通らなかった。それを僕は未だに秘密にして、先生の所で役者として、見習い
をしている。もし、ばれたとしても、先生は軽く怒って済ますだろう。そういう
先生だから。    
僕のネットで知り合った友人マロニエさん(仮称)も自分の夢に向かって、必死
に頑張っているようだ。彼の夢は、小説家になる事。彼なら、やってくれそうな
予感がする。彼は、この作品の『星野哲郎ばりの部屋』を読んで、作詞を媒介と
した哲学的な文章と感想を述べてくれた。彼は言う。言葉はそれ自体、伝える事
が重要で、言葉の一つ一つのつながりが大切なものとなっていくのだと。まさに、
彼の言う事は、正解だ。作詞とは、言葉の一つ一つを確実に伝えるためのリンク
なのです。そんなマロニエさん(仮称)の作品を紹介しよう。

宝の地図
   作 マロニエ
   
Let`s go the distance
さあ出掛けよう
まだ見たこともない場所へ
まだ誰も知らない
自分だけの場所を見つけに行こうよ

沈む夕日を見て何故か淋しくなったあの日
暮れ行く空がとても怖くて思わず駆け出した
夜の闇に全て飲み込まれそうになったあの日
あなたは覚えていますか

ここからまた行くよ
今はまだ明日が見えていないけれど
僕は行くよ
ここから僕の未来の物語が始まる
Let`s get your story

Let`s go the distance
さあ出掛けよう
まだ誰も知らない世界へ
心に広げた宝の地図で
まだ見ぬ夢の世界を見つけに行こうよ

誰でも大きな翼を持っている
みんな翼を広げるのが怖いだけ
さあ少しの勇気を出そうよ
翼を広げてあの高い空へ飛ぼうよ

僕らが夢見た大人の世界は
綺麗なだけの世界じゃなかった
だけど僕らは大人になっていく
だから僕らは夢を持ち続けるんだ
あの日見た宝の地図を胸にして

さあ僕と一緒に行こう
あの宝の地図を胸に広げて
誰も知らない自分の宝を探しに
怖いものなど何も無い
夢という名の翼を広げて
何処までも高く飛ぼうよ

みんな夢を持ってこの世に生まれてきた
大きな翼を持って生まれてきた
だから君も飛ぼうよ
たとえ世界が明日終わろうとも
僕は君を探すだろう

「I find you somewhere in the world・・・・・・」

この作品を最初、彼からメールで送られてきた時、僕は安易に彼の作品を辛口で
評価してしまった。せっかく、翼や未来という言葉が出て来たんだから、もっと
フレーズを生かしてみてはと。だが、この評論は、大きな間違いだった。彼の作
品は、おそらく、これで完成されている。おそらく、彼の文才によって、作られ
た偉大な作品・・・と言ってしまっても、おおげさすぎるかもしれないが、この
作詞は、歌い手と作曲家によって、完成された歌へと変貌する可能性がある。僕
自身、偉大な船村徹先生、遠藤実先生、ましてや、恩師である谷昇先生の足下に
も及ばないが、僕は、この歌を彼の許可を得て、作曲したいと思った。HITOMIに
歌わせるといい感じになりそうだ。後、Do as infinifty 辺りとか。
僕は、この作品を書く前の電車帰りに思いついた作詞があるのだが、紹介しよう。
男のような顔
    作 相葉和彦
    
夕暮れ時の満員電車の中で
席に座ってた俺の前に
きつい顔した彼女がいた
ああ 一人では
君は優しさを見せる暇もなく
孤独で悲しそうな
男のような顔

お昼過ぎでの空いてる電車の中で
向かい合わせでの俺の前に
きりっとしてる彼女がいた
ああ 一人では
君は疲れたそぶりを見せなくて
立派で格好いいよ
男のような顔

仕事帰りでの始発の電車の中で
たまたま出逢った俺の前に
昔馴染みの彼女がいた
ああ 一人では
君は話しやすかった性格で
勇気のあるようだね
男のような顔

女のクセに
たくましく見える
男のような顔

これは、1月21日、中野から自宅へ帰るための東西線直通の東葉勝田台行きの
電車で、座っていた僕の前にいた女性の顔が失礼ながら、男顔だった事から、思
いついた作詞だ。これは、今後、歌謡ポップス系のジャンルでCD化してみよう
と思う。この作詞自体は、シンプルで奥が深くない歌っぽいが、内容は、自分で
も斬新なものだと思う。このように作詞は、意外性のあるものもヒットしやすい
のではないだろうか。谷昇先生は、こう語る。

「音楽は、一種の賭け事なんですよ。その曲が自分に合った個性のある物であれ
ば、波にのれる。そういう物なんですよ」

と。人には、様々な夢がある。医者を目指す者、教師を目指す者、弁護士を目指
す者。他色々あるが、僕やマロニエさん(仮称)を始め、芸事を目指しているも
のは、決して努力を怠ってはならない。いつか、夢がかなった時、忘れるような
夢など存在しないのだから。作詞家は、バイトをしながらだって、出来る。だか
ら、この作品を読んだ全ての作詞家を目指す者達へ。希望を捨てないで、感性を
磨く努力を惜しまずに。世に完全に認められてない僕が申し上げて、誠にすいま
せん。でも、頑張ってください。

2004年1月22日1時の相葉和彦の現在
(続く)



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