第1話:亡くした携帯

「世の中、叫ばれるより、叫ぶ事の方が多いと思うのは、必然でしょうか?偶然
でしょうか?この話をこれから、紹介するのは、私も身の毛がよだちます。スト
ーリーテラーの相葉和彦でした」

場所は、千葉県船橋市。JRでいうと、武蔵野線船橋法典駅の近くの住宅街。今
回の主人公の名前は、青島慎。千葉大学を27歳で卒業して、現在、警備員とし
て、働いてるフリーターだ。
彼は、趣味が非常に少ないが、その一つだけの趣味が、携帯電話のメールいじり
だ。そのメールいじりの中で、特に彼が行っているのが、有料サイトの登録。女
性からのメールが絶えない有料サイトの『ラブ・ライフ』に登録している。お目
当ての女の子は、『ななちゃん』。
青島は、その子に何度もメールを送っているが、未だに本名すら知らない。解っ
ているのは、その子が、元おにゃんこクラブの娘だった事のみだ。
そのななちゃんだけでなく、他の女の子とも、その同一サイトの中でやりとりし
ている。『かなちゃん』とか『ゆかちゃん』とか。
彼は、女の子に実際、会わずとも、メールしてるだけで楽しかったはず・・・だ
った。
ところが、ななちゃんがおにゃんこクラブの記念写真を登録している事で、実際
に無性に会いたくて、しょうがなくなった。
彼は、その記念写真を見て、アイドルおたくの血が騒いだ。彼は、アイドルに目
がない。松浦亜弥とか上戸彩とか。元々は、有料サイトの存在を知るまでは、ア
イドルおたくだったのだ。写真集とか前に買った物が、自分の部屋の床に散乱し
ている。
母親の名前は、青島由紀子という。父親の名前は、青島竜太だ。
彼は、時々、母にその汚い部屋を叱られる。

「いいこと?あなたは、いっつも、何してんだか、分かんないけど、いい歳こい
て、実際の彼女、見つけたら、どう?それにその汚い部屋、何とかしなさい!」

「いちいち、がたがたうるせいんだよ!ババァ!俺は、警備員という立派な職、
持ってんだから。それに俺の部屋のこと、干渉しないでくれよ!」

「警備員がそんな口の聞き方していいと思ってんの?部屋もろくにかたづけられ
ない人が警備員やる資格ないわよ!」

「うるせぇ!」

バタンと彼は、大きく自分の部屋の扉を閉め、母を追い出した。
父にも叱られた事がある。
彼の携帯電話サービスの料金価格を見て、

「慎、何だ、この1万円って、バケット料金は?」

彼は、正直に、

「有料サイトのバケット代だよ」

「いいか、慎。有料サイトってのは、男が女のふりをして、騙しているケースが
あるから、関わんない方が身のためだぞ」

「いいじゃねぇか。俺が払ってる分には」

「でも、お前が払えなくなったら、私が払わないといけないんだからね。注意し
なさい」

「女の子に決まってるだろ。大体、どうやって、いちいち、男が女のふりをする
のさ。写真だって、本当の女の子だし・・・」

「慎。そんな興奮しなくても」

「親父がしつこいからだろ!」

と言うと、母が、

「さっきから、聞いてると、お父さんもしつこいと思うよ」

これで、口論は終わったのだが、親友の長田啓介君も、

「有料サイトは止めた方がいいよ。12万、13万とお金取られたあげく、自分
の事、有料サイトの人間に全て知られるんだから・・・」

「分かったよ」

と言ったが、彼が有料サイトを止める感じはない。
ななちゃんからのメールが届いた。

〈国生って、レズなんだよ〉
〈今も私の体のあちこちを触ってくるの・・・・・・〉

「その先の内容は、ポルノ小説になってしまうので、ストーリーテラーの私には
語れません」

国生というのは、国生さゆりの事で、元おにゃんこクラブの一員だ。ななちゃん
もその一員だと、慎は半信半疑だったが、一応、メールにとけ込んだ。

〈君の写真は・・・?〉
〈おにゃんこ全体が写ってて、君の写真が見当たらないじゃない。どういう事?〉
と彼は、メールを返信したが、そのメールの返信が返ってきた。
有料サイトに入った男性は、女性からのメールが絶える事がめったにない。
メール好きの彼もお目当ての子以外は、全て削除する事にしている。

〈一応、当時のビデオ〉
〈があるんだけど。全員が写っている奴。アポ取らない?一緒にプレミアビデオ
売りさばかない?〉

「ほ、ホントかよ!?」

彼は、歓喜のあまり、携帯を握りしめながら、ベッドに仰向けになって、足をバ
タバタさせた。
ところが、そのメールに返信しようとしたところ、ポイントが足りなかった。ポ
イントというのは、メールを一返信する度に20ポイント使うもので、彼は、当
初、1300ポイント購入したのだが、かなちゃん、ゆかちゃん、ななちゃんだ
けで、1300ポイントざっと使ってしまった。彼は、色々、女の子達と話がし
たかったので、クレジットカードで1000$購入した。警備の仕事で、収入が
入るからと思っての事だが、捕らぬ狸の皮算用だった。
次の日に入って、警備の仕事に入った。彼は有頂天のあまり、携帯の電源を切る
事を忘れていたようだ。警備の仕事をしている間もメールが次々入ってくる。
マナーモードにしてあるものの、彼は落ち着きがない。
ついに工事現場の監督に叱られた。

「ちょっと、君、ちゃんと、警備してもらわないと、困るよ。君の会社にこの事、
報告しますよ」

「待ってください!それだけは・・・」

「もしもし、信用警備保障かね。君のところの青島警備士がきちんと警備してく
れないから、通行人が困ってるのだよ。何とかならんかね?」

「次の日、彼がクビになったのは、言うまでもありません。ストーリーテラーの
相葉和彦でした。彼は、12万円という大金をクレジットカードで使い、携帯電
話のバケット料金も自分で支払わなくてはなりません。この先、一体・・・」

彼は、一生懸命、就職口、アルバイト先を探した。プライドの高い彼は、一流の
仕事先ばかり。彼の人格が災いして、14件、全てが不採用に終わりました。

「もうこうなったら、俺が集めたアイドルグッズを売りに行くしか、道がない」

慎がそう自宅の自分の部屋の中で呟きながら、写真集だの、ビデオだの集めてい
ると、ストーリーテラーの相葉和彦が現れた。

「お前は、誰だ!」

「私は、この物語のストーリーテラーの相葉和彦です。今から、あなたに二つの
選択肢を与えます。どちらかを選ぶ事で、あなたは、叫ばれるか、叫ぶか、選択
肢を迫られます。一つ目、このまま、ななちゃんに電話番号を聞くか。二つ目、
アイドルグッズを売りに行って、使った費用を銀行の口座に振り込みに行くか。
さあ、どっちを選択します?」

「ア、アイドルグッズを売りに行く!!!」

「ジェット・スクリーム!!!」

そう言うと、相葉和彦は消えていった。

「何だったんだ?今のは。幽霊か、幻か?」

「まあ、そんな事どっちでもいい!!!」

彼は、一目算に自宅を飛び出し、バイクで近くのツタヤにアイドルグッズを売り
に出掛けた。
彼は、焦りのあまり、交通ルールを無視し、トラックをバイクで追い抜いってた。
その時、携帯がポケットから、転げ落ち、トラックに携帯がグシャグシャにされ
てしまい、彼は、恐怖の叫び声をあげた。

「うぁあああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ななちゃんもかなちゃんもゆかちゃんも失った青島慎。だが、こんな事でめげる
男ではない。
結局、ツタヤで売れたアイドルグッズは、5万円程度だった。借金を返すあても
なく、彼は、いかんくさい携帯ショップで携帯電話を買った。機種は505iSだ
った。
彼は、性懲りもなく、有料サイト『ラブ・ライフ』に加入した。

〈君に会いたい〉
〈機種変えたから。俺の写真見てね♪〉

と彼がメールを送ると、

〈ななより〉
〈何で、メールすぐ送ってくれないの?私、愛想が尽きたわ。さよなら〉

〈こっちから、さよならだ〉
〈このクソアマ。こっちこそ、お断りだ〉

と返信して、ななちゃんからのメールを削除した。削除した、その時、彼は、こ
の世から消えていた。
慎の両親が、テレビのニュースを観ていた。

「今日、未明、川原菜々子(32歳)が、クラブ「青やけ」で酒を飲んでる途中、
バーテンの前から姿が消えるという不可解な事件が起きました。警察は、クラブ
のマスターから、事情を聞き・・・・・・」

「青島慎の両親が後で息子が消えてしまったという事を知ったのは、言うまでも
ありません。購入した携帯は、亡くした携帯の恨みなのですから」

出演者:青島慎
    青島由紀子
    青島竜太
    長田啓介
    その他有料サイトの人間達
    ストーリーテラー相葉和彦




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