第2話:嘘つき

「かつてこんなに嫌われた俳優が果たして、存在していたでしょうか?彼は、女
性から叫ばれるなんて事は、一切ございません。彼は、むしろ叫ぶのです。世に
も恐ろしい哀れな叫びを。ストーリーテラーの相葉和彦でした」

帝国ホテルのMVP室にAV女優と一人の俳優がいかがわしい行為をしていた。
何かと言えば、言うまでもない。男女の契りだ。今回の主人公の名前は、似非大
周。あの俳優の加瀬大周の影武者として、芸能界にデビューしている。加瀬大周
の影武者と言えば、1991年、加瀬大周が事務所の独立を巡って、裁判を起こ
した際に、『坂本一生』と名乗る『新加瀬大周』がデビューした事でちまたで一
時、有名になったが、その後、坂本一生がどこへ消えてったのかは、あまり知っ
ている人は少ない。それにも関わらず、また『ネオ加瀬大周』として、似非大周
は、芸能界入りした。彼の所属事務所は、浅井企画。あのキャイーンや萩本欽一
や関根勤、小堺一機で有名なあの事務所に所属している俳優だ。彼は、元々は、
お笑い芸人だった。浅井企画のネオネオダイナマイトショーでブレイクしたとこ
ろ、事務所の社長から声がかかった。

「似非君、似非大周として、俳優デビューしてみないかね?」

似非大周という芸名は、加瀬大周にそっくりの顔をしていて、本人の物真似がう
まい事から、自分で命名した。『似非大周のエセヒューマニズム論』というコン
トがお笑いライブで非常に好評で、当時は、お笑い好きの女性からは、ファンが
殺到した。
だが、その人気もここで終わろうかとしている。帝国ホテルのMVP室から出て
来た似非大周とAV女優が、カメラマンに激写された。似非は、怒りのあまり、
カメラマンに飛びかかり、拳を乱打させた。口から血を出して、失神したカメラ
マンをMVP室に引きずり込み、丁度、都合のいい事に、小道具で持っていた手
袋と果物ナイフを使い、自殺しているような姿で、カメラマンの左手にナイフを
持たせ、胸を刺させた。AV女優の名は、冴刃蘭子と言った。全く、脱ぐ事しか
能のないAV女優である。蘭子は、

「ねえ、ホントこのカメラマン、馬鹿だよね。最も、体売って生活しているあた
しに言われちゃ、おしまいだけどね。キャハハハハ・・・」

「シーッ!そんな大声出して笑うなよ。ホテルの人に見つかっちゃうだろ。ササ、
早くこの部屋出た、出た」

「お疲れ様です」

部屋を出た時に現れたのは、ホテルのMVP室を警備している一級ガードマンだ
った。似非は、

「あのー、部屋散らかってますけど、覗かないでくださいね」

と警備員にジョークを言って、その場をごまかした。

(何か、怪しいなぁ。でも、まあ、いいか・・・)

と警備員も不審に思ったが、似非は、何とかその場をしのいだ。
MVPの部屋のベッドに横たわるカメラマン。
その時、彼の左手がピクリと動き始めた。その左手はゆっくりとナイフの突き刺
さっている胸元へと動いて、ナイフを胸から取り出した!
その瞬間、血しぶきがまいた。カメラマンは、ニヤッと不気味に微笑み、メモ帳
を右手で取り出した。そして、『LIE』と広げてあるメモ帳に血文字を書いた。
「俺の役目は果たしたぞ・・・・・・」

と言い残し、息絶えた。
ホテルを出た似非は、蘭子に、

「ここで別れよう。また、ろくでもない記者にスクープだと言われちゃ、たまん
ないからな」

「分かった。じゃーねー!」

手を振るAV女優と殺人者の人気俳優。
二人は、同じ穴のムジナだったのかもしれない。
タクシーに乗って、自宅に帰ろうとすると、携帯が鳴った。

「もしもし・・・」

「初めまして!あなたの新しいマネージャーの相葉和彦と言います。明日、ごき
げんように出演予定だそうですが、およしになった方がいいですよ」

「ふざけるな!お前、どこから掛けてんだ」

「ツーツー・・・」

「一体、どこの馬鹿野郎だよ」

すると、タクシーの運転手が、

「お客さん、どこかで見覚えが・・・」

「似非です。似非大周です」

「ああ、あの有名な似非さんですか。何だか、加瀬大周とかいう俳優にも、そっ
くりですねー」

「ハハハ。よく言われます。っていうのは、ジョークなんですけどね。実際、あ
の俳優さんの影武者です」

「へー、じゃぁ、物真似とかうまいんだ?何かやってくださいよ」

「物真似は、出来ませんけど、小話を一つ」

「ヒュー。ヒュー」

「殺人って、お金で買えるよね。暗殺者を雇ってもいいし、弁護士に不可抗力だ
と言って、お金渡してもいいし。でも、私は、虫一匹殺すにも、お金は出せませ
ん。何故って?お金欲しさに借金地獄ですから」

「お客さん、やるねぇ」

「何だか、気分が良くなってきた。運ちゃん、俺、はしご酒に出掛けるわ。予定
変更!新宿の歌舞伎町へ」

「いいんですか?お客さん?明日、ごきげんよう出るんでしょ?」

「ハ?何で、運ちゃんがその事知ってんの?」

「私は、この物語のストーリーテラー、相葉和彦ですからですよ」

「ジェット・スクリーム!!!」

「ハ!」

「お客さん、ここでいいですか?」

「何だ?さっきのは?俺は夢でも見てたのか?運ちゃん、お釣りはいらねえや」

そう言って、似非は、タクシーをお金を渡し、降りた。
深夜の繁華街にも人は、何故か多い。今日は、実は、クリスマス・イブだった。

「ねえ、あの人、カメラマン殺害したあの似非じゃない?」

二人連れの女の子が、似非を見て、そう言っている。もう一人が、

「キャー!!!殺人者がいる!!!」

「あいつは、犯罪者の似非だ」

街中にこだまする似非へのメッセージに、

「いい加減にしろ!俺が何したって、言うんだ!」

と似非は、地団駄踏んで、開き直った。

「あれ、俺は一体!?」

気がつくと、似非は、自宅のベッドで目を覚まし、起きあがっていた。

(酔っぱらってたのかな・・・)

そして、ごきげんようの時間が始まった。MCの小堺一機が、

「今日のゲストは、似非大周さんでーす」

と紹介すると、

「キャー、似非さーん!!」

と女性ファンから歓声があがった。

(何だ、あれはやっぱ、夢だったんだ。俺の殺人がばれるはずがない・・・)

とボーッと立ってると、小堺さんが、

「どうなさいました?また、昨日、飲んできたんでしょ」

と似非をからかった。
トークの時間に入り、サイコロを振る番が自分に来た。
サイコロの面は、『自分が人がいいと思った話』だった。

「そうですねー。最近、自分でも人がいいとホント思ってるんですよ。何でも、
素直に話せるんですよねー。自分が犯した罪とかも具体的に話せますし」

「とおっしゃいますと?」

小堺さんがそう聞いてきた。

「例えば、私が変な話、スキャンダルになるような女性と付き合ってたとします
よねー。そこにカメラマンがいたとすると、大問題になっても、そのカメラマン
殴っちゃったりしてね」

「このエセヒューマニスト!偽善者!最低!かえーれ!かえーれ!」

会場の女性達が、似非を指して、ブーイングした。

「や、やめてくれーっ!うぁあああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ハッと気がつくと、似非は、霊界にいた。そして、似非の前にストーリーテラー
の相葉和彦が現れた。


「あなたは、最低の嘘つき人間です。嘘をついたあまり貴方は、殺害したカメラ
マンに呪われた。そして、あなたの存在自体が嘘となったのです」

「どういう事だ?」

「つまり、あなたは、この世の人である事自体嘘なのです。そして、この物語を
作った私も嘘」

その頃、ごきげんように出演してたはずの似非大周は、加瀬大周と入れ替わって
いた。

「今日でお別れです。加瀬大周さんでしたー!!!」

出演者:似非大周
    冴刃蘭子
    タクシーの運転手
    カメラマン
    小堺一機
    加瀬大周
    ストーリーテラー相葉和彦




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