第2章:クルーザの三日天下

東の都市サルクでは、酸素ボンベをつけた100人のアンドロイドが、この都市
を制圧していた。
一方、ウェグナーは、「一分間、瞑想の時間を与えよ」と、サンバナにその旨を
パーティー内にいる全ての参加者に伝えた。
パジェット人の一人、オロークルは、マッド・サイエンティスト達を除く、全て
のパジェット人の中で、不思議な予知能力を持つ予言者だった。
オロークルは、大声を上げた。

「ウェグナー人は、もう我々、パジェット人の味方ではない。今から、約200
0年後、この惑星は、大きく二つの世界に別れるだろう。その時まで、我ら、パ
ジェット人は、マッド・サイエンティスト達の奴隷となるのだ!」

「俺、言ってる事解らない。マッド・サイエンティストって、何だべ?」

「ママ〜。怖いよ〜」

「よしよし」

「これは、おかしい。何故、私ら、奴隷」

と混乱する会場のパジェット人達。ウェグナー人達は、パジェット人を諫めてい
たが、
オロークルが、

「いい加減にしろ!黙って、言う事を聞け!」

と怒鳴ったその時、ウェグナーが、

「出来た!観よ!この巨大なダンジョンを。カラクル!ウード!」

ウェグナーが、カラクルと唱えると、パーティー会場全体が、東の都市サルクの
映像になった。ウェグナー人とパジェット人が、全員ごくりとつばを飲んだ。
そこには、100人のアンドロイドとアンドロイドのボス、クルーザが住処とし
ているマリスビルの断面図が映っていた。

マサゲティが、

「説明します。ここは、東の都市サルクにあります、マリスビルの17階のフロ
アの断面図が映し出されています。ここにいる全てのパーティー会場を除いた、
見た事のない人間は、オロークルが言うように、マッド・サイエンティスト達に
よって、作られた新しい生命体とそのボスがいる事に、違いないでしょう。そし
て、このパーティー会場を包んでいるのは、皆、幻なのです」

その幻の100名のアンドロイド兵とクルーザが会話している。

「皆さん、お勤めご苦労様です。私達は、もっと兵力を増大し、最大20万人の
アンドロイド兵で、この惑星パジェットを鎮圧したいと思います」

(なるほど。そういう事か・・・)

ウードの魔法で盗聴していたウェグナーがいぶかしげに自分にうなずいた。

「それにしても、さっきから、気になりますが、この周りに漂う妙な霧は、何で
しょう?ウェグナー様」

とサンバナが幻の事を指摘すると、ウェグナーは、

「わしにも、よー、解らんが、おそらく何かのガスだろう。それにしても、科学
というのは、何とも偉大なものであろう。我々、ウェグナー人は、その叡智に対
抗すべく、偉大な魔法使いを育てるべきなのだ。さー、突撃するぞ。マリスビル
にかいまをみて、地下のダンジョンへと向かうのだ」

ウェグナー人の子供が、

「ビルって、なーに?」

と聞くと、その母親が、

「科学者って、いう人が作ったって、いう建物の事よ」

「さー、ぐずぐずしている暇は、ない。場所を移るぞ。ハーリア!」

とウェグナーが魔法を唱えると、ウェグナー人のみ、光のようなオーラに包まれ、
ウェグナー人一同は、東の都市サルクにあるマリスビル1階にテレポートした。
揃ったウェグナー人は、ウェグナーと大臣と秘書を入れた全員で、343名。つ
まり、パーティー会場にいたパジェット人は、招待された400名のうち、60
名という事になる。パーティー会場にいた60名のパジェット人は、オロークル
を筆頭にすごすご自宅に帰っていった。オロークルは、自宅へ帰ろうとしていく
パジェット人達に、

「我らは、潔く文明の協力者となるべく、自宅で大人しく待機してるのだ。いい
な?」

と大声をあげて、パジェット人達をまとめた。
そして、パジェットタワー前に集まっていた約3100人のウェグナー人、パジ
ェット人達は、すごすごと自宅へ帰っていく60人のパジェット人達と統率して
いたオロークルを見て、

「オロークル達だけがタワーから出て来たぞ!一体、どういう事だ!」

「パーティーは、もう終わったのか?」

「私も家、帰ろう」

と方々で会話が始まった。彼らが、ウェグナーに選ばれなかった戦士達とは、思
いだにしていない。
1階とマリスビルの入り口付近に集まった343名のウェグナー人達は、辺りを
囲む、エボラ菌ウィルスガスに気分が悪くなった。

「汚れた空気を浄化せよ!ハルトウォーリア!」

たちまち、ウェグナーの魔法で大気が癒される。

「皆の者、これで妙な空気は、浄化されぞ。気分の悪い患者も回復するぞ。ダ・
ラマハーリア!」

ウェグナーがこの魔法を唱えると、具合が悪くしゃがみ込んでいるウェグナー人
達の大半が光に包まれ、体力が見事に回復した。
一人、一人が精悍な顔つきへと変貌した。
何か、非常音が聞こえる。そのサイレンは、

「ブー!ブー!侵入者発見!侵入者発見!ただちに抹殺せよ!」

342名のウェグナー人は、慌てふためいた。
果たして、戦えるだろうか?

「なーに、慌てる事はないさ!各々、雷魔法パラは使えるだろう。全員唱えるの
だ!」

「パラ!パラ!パラ!パラ!・・・・・・」

大臣も秘書も含めて、342名がパラを唱える。

「パラハーリア!」

17階でマシンガンを持って、次々と乗り込む100人のアンドロイド達は、焦
げつけた。そればかりか、パラハーリアの魔法で、342名のパラは、マリスビ
ル全体に雷が放電した。
クルーザは、

「おのれ、忌まわしいウェグナー人共!私がこんな程度の魔法でやられると思う
なよ!」

とは、言ったものの、クルーザは、露中に迷っている。電話も携帯も通信機、パ
ソコン、オペレーター室、全てが壊れてしまっている。援軍が来るのを待つしか
ないか?

「私じきじきにウェグナー共の相手をしよう!」

クルーザは体内の細胞を増加させ、バイオ兵器に変身した。
17階から、窓を突き破り、1階の外に落下した。
バリアを張る魔法は、カラカンテと言い、初級魔法使いでも、簡単に使える。
カラカンテを唱え、外で待機していた300名の魔法使い達は、バリアを張って
いたにも関わらず、そのうちの少数が、体長2メートル60センチ、体重357
キログラムのクルーザに押しつぶされた。

「げほっ!げほっ!」

怪我を負った魔法使い達の前にクルーザが更に謎の泡を吹きかけた。
その泡は、毒を帯びている泡だった。

「おやめなさい!外道の畜生よ!」

ウェグナーとサンバナとマサゲティがクルーザの目の前に立っている。
ウェグナーは、

「これからが非情な戦いになるやもしれん・・・」

マサゲティが、

「奴は、確か、一億度の高熱にも耐えられると言ってましたね。それなら、ウェ
グナー様、禁断の魔法、ダンブサステを使ってみては、どうでしょう?」

「マサゲティ、何故、その事を知っておる。ナンが死んだのは、私しか知らない
はず。それに何故、その情報を」

「お言葉ですが、ウェグナー様、私は、立派な秘書ですよ。ウードで聞いていた
のです」

「カッカッカッ」

ウェグナーは、可可大笑した。

「いつまでも、訳の分からん事をほざいておる。攻撃してこないなら、こっちか
ら行くぞ」

ウェグナーをその緑の鱗のついた両腕でハッキングしようとするクルーザ。

「ヴァグジャー!」

その魔法をウェグナーが唱えると、体が透明になった。幽体と化したのだ。

「どこだ!どこにいる?」

迷走するクルーザ。

「サステリアス!」

焦げて廃墟と化したマリスビルに灼熱の炎がビルの床に命中し、溶岩となった。
そして、溶けていった地面に穴蔵が出来た。

「よく聞け。皆の者。その穴蔵の地下に階段があるだろう。それがお前達がこれ
から生きていくための道しるべとなるダンジョンだ」

怪我を負い、毒を帯びた魔法使いは、付き添いのサンバナとマサゲティが介護し
ながら、廃墟のビルへと342名のウェグナー人が地下のダンジョンへと向かっ
た。

「これで心おきなく戦えるな。クルーザよ」

「私をなめるな!」

何もないとこで、ブンブン両腕を振り回すクルーザ。クルーザは、間抜けの巨大
ガエルの様だった。実際、そのような格好をしている。

「クルーザ様。クルーザ様。聞こえますか?」

上空から巨大な戦艦がウェグナーとクルーザの前に現れた。

「しめた!援軍だ!今日のところは、見逃してやろう。覚えておけ!」

クルーザは、戦艦に乗り込んだ。

「ヴァグジャーオル!」

実体に戻ったウェグナー。

「さて、地上世界はしばらく様子を見守り続けるか・・・今は、残された魔法使
い達の身の安全の方が優先じゃ・・・」

こうして、ウェグナーもダンジョンへと向かっていった。

「クルーザ様。素晴らしい変身ですね」

隊長のアンドロイド兵、パシスは、クルーザの変身にうっとりしてた。
戦艦の中で、クルーザはイライラしていて、しょうがなかった。

「お前達、今から、私の言う事にそむいた者は、反逆罪として、殺します。いい
ですね?」

「ハッ!」

戦艦の中にいる500人のアンドロイド兵が一同に声を揃え、敬礼した。
巨大戦艦は、パジェット街に向かっていった。
ウェグナーの完全なる誤算だった。
パジェットタワーには、妻も子供も置いてきているではないか!?
どうやら、ウェグナーにその心配は、ご無用だった。
妻は、383歳の魔女、子供は、80歳の一人前の魔法使い。
妻と子供にウェグナーがパーティーに招待しなかったのは、子供の教育に時間を
掛けるためだった。
東の都市サルクから、パジェット街まで、わずか100キロメートル。巨大戦艦
のスピードも時速最大500キロメートル。
約14分掛かる。
巨大戦艦がパジェット街まで、到達した。空から声が聞こえる。

「いいですか?パジェット街の皆さん、今からワタクシ、クルーザが素晴らしい
ショーを演じてあげましょう。名付けて、魔法使い狩り」

「何だと!?」

周りにいたウェグナー人が、異口同音に声を揃えて、反発した。
そこらにいたパジェット人は、

「何だ?何だ?何が起こってんだべ?」

と声を揃えた。

「食らえ!バイオミサイル!」

ウェグナー人にバイオミサイルが降りかかる。
全員即座にカラカンテを唱え、バリアを張ったものの、大多数がミサイルの餌食
となった。

「肉がにくが腐敗していくー!!!」

肉体が腐敗していくウェグナー人。
巨大戦艦から、パラシュートで500人のアンドロイド兵が地上へと降り立ち、
ダメージを受けたウェグナー人をかたっぱなしから捕らえていった。
戦艦の中で意識を取り戻したウェグナー人。
アンドロイド兵の一人が牢獄を見張っている。その数、約2500人。

「お前達は、クルーザ様の寛大な意志により、魔法の使えない生物兵器と化すの
だ。ワハハハハ!」

「無念だ。せめて、ウェグナー様がいらっしゃれば」

(案ずることはないわ)

どこからか、声が聞こえた。

「これは、魔女様のお声・・・」

(後、2日お待ちなさい。あなた達を救ってみせますわ)

それから、2日後、魔女様と80歳のウェグナーの子供が、マッド・サイエンテ
ィストの孤島へとやって来た。

「クルーザを出しなさい。それと捕らわれているウェグナー人全てを解放しなさ
い」

魔女がそう言うと、クルーザが秘密基地から出て来た。

「これは、これは。親子連れで丁寧ですこと。ワタクシと勝負するですと?これ
また、ご冗談を」

「空を見るがいい!」

遙か頭上では、巨大な光がゆっくりと惑星パジェットに降り立とうとしていた。

「ダンブサステ!」

「まさか、惑星をこの星に落とすなぞ・・・」

クルーザは、恐怖におののいた。

「このまま、ムザムザと死んでたまるか!」

クルーザは、前と同じ変身をした。

「サムソン、このまま、皆を連れて、逃げるのよ。マリスビルのダンジョンで皆
が待ってるわ」

「お母さん、やだよ」

「この星の運命は、あなたに託されてるの、分かった?」

それから、魔女は、無意味な魔法を次々とぶつけた。
クルーザの拳が魔女を貫く。

「ざまーみろ!」

「フフフ。でも、あなたも終わりね」

惑星並の灼熱の炎がクルーザを襲う。

「何の・・・これしき・・・」

惑星パジェットの太陽の代わりとなる惑星が落ちてきたのだから、一溜まりもな
い。
その頃、ダンジョンを無事、通過したウェグナー達は、激しい地響きを感じてい
た。

「あやつめ。ダンブサステを使ったか・・・」

ウェグナーは、地底に広がる洞穴を開拓していくことにした。



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