第1話:記憶喪失の少年

これは、ある寒い地方の話である。
その日は、吹雪が吹いていてとても寒い日だった。周りには人っ子一人いず、辺
りは閑散としていた。
だが、しかし過疎化された貧しい農村に一人ゆっくりと身を縮ませながら、歩く
少年がいた。歳は、20歳もいっておらず、まだ高校1年生ぐらいの年齢だろう
か?その少年は、記憶喪失であろうか、自分のことも解らずにこうつぶやく。

「僕は、一体どこから来たんだろう?」

しばらく県道を歩いているうちに、少年はある民家を訪れる。
その民家はわりかしこの地方でも有数の農家であり、家も立派だった。
少年は、玄関に立ちチャイムを鳴らした。ピンポーンと二回鳴らしたが、家の
人が出てこない。少年はしぶしぶ帰ろうとした時のことだった。

「こんな寒い日にどうかしたのかい?」

お婆さんが一人庭から出てきた。

「僕には帰る家がないんです」

少年はこう答えた。

「帰る家がない・・・、坊ちゃん家出でもしたのかい?」

「違うんです。僕、今までのことを全部覚えてないんです。一体僕はどこからや
ってきて、何がしたいのか?そして、どこへ向かえばいいのか?」

「き、記憶喪失じゃないの、大変。ちょっとそこで待っててね。家の人呼んでく
るから!!」

農家のおばあちゃんは、慌ただしく家の窓を開けて駆け込んでいった。

「ちょっと、お父さん、お父さん!!」

「なんだ、なんだよ、今、渡る世間は鬼ばかりがいいところなのに・・・、ぶつ
ぶつ」

おばあちゃんは剣幕を立てて問いただした。

「それどころじゃないでしょ。今、記憶喪失の子が家に、はあ、はあ・・・」

「静江、落ち着きなさい。最初から事の成り行きをだな・・・」

おばあちゃん、冷静になる。

「今、その子家に入れるから」

静江ばあさんは、その少年を玄関から温かく歓迎した。

「さあ、お上がり」

「お、おじゃましまーす」

少年は、確かに記憶喪失であったが、外見はちょっと今時の都会っ子らしく見え、
だが、しかし時折暗い感じを見せるイメージがあった。
静江さんの息子が出稼ぎから帰ってきた。この家は2世帯であった。

「あのね、この子、かわいそうに記憶喪失なんだって」

静江は、息子孝に話を切り出す。

「ちょっと待った、香織を呼んでくる」

孝、妻の香織を呼び出す。

「なーに?今、洗濯で忙しいのよ」

「いやーね、今住所不定の子が家出をしたらしくてさぁ」

「えー、どこの国の子?」

「いや、そういう問題じゃなくて、この子をこれからどうするかだよ」

少年、話の一部始終を聞いてたらしく、こう話す。

「ごめんなさい。僕にも何がなんだか解らずじまいで。迷惑だったらどこか当て
を探します」

家族そろって会談を始める。

「孤児院にひきとってもらうか」

「いや、でもこの子の意見も聞かないと・・・」

孝、少年に質問する。

「君は、見たところずいぶん若いけど、中学校は卒業したんだろ?」

静江、少年にお茶を出す。

「あ、思い出した。僕は東京の都立第一中学を卒業したような」

「うろ覚えじゃ、困るのよ」

香織が問いつめる。

「とりあえず、この町の住民票に登録して、高校に入学させよう。かわいそうだ
し。家で引き取ることにしよう!!」

孝の提案で少年とこの農家の奇妙な生活が始まることになるのだが・・・

その夜、その少年の名前を決めてないことで討論が始まる。
香織がふと疑問に思う。

「名前も覚えてないの、あなた?」

静江が答える。

「記憶喪失だから仕方ないじゃないの」

「でも、中学を卒業したことは覚えているわよね」

香織、ますます疑問に思う。

「そんなことより名前は・・・俊彦、俊彦にしよう。香織が
昔から田原俊彦のファンだし」

孝が切り出した。

「今は、ファンでもないし、最近全然出てこないじゃない!!」

香織が反論した後で、静江が答える。

「まあまあ、いいじゃないの。俊彦で。俊彦はどうしたんだい」

「2階の俺の部屋でぐっすり寝てるよ、疲れたんだろ。そっとしといてやろう」

明くる日の朝、孝は出稼ぎに行くのをやめて、町長と知り合いである町役場に向
かう。
そこで、町長に住民票と高校入学がなんとかならないか話を切り出す。
さて、俊彦の人生はいかに

続く



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