第10話:未来への入り口

その日、日本全国に衝撃のニュースが走った。
何とその昔、山内家が山菜を採りに行った時、行方不明となってはぐれてしまっ
た山内俊彦が北朝鮮に拉致されていたというのだ。そして、今、衝撃の記者会見
が始まろうとしている。

「ニュースエコー」

「ニュースエコー史上最大のニュース 山に遭難していたと思われた少年が何と
北朝鮮に拉致されていた」

「ニュースエコーの時間です。数年前、山内俊彦君が飯豊山で遭難されていたも
のとして、警察に捜索願いを出していたものの、21世紀になって、北朝鮮にこ
の少年が拉致されていた事が分かりました。平泉首相は、この事実を受け止め、
金正和総書記官にこの少年を日本に帰すべく要請。金正和総書記官は、いずれま
た我が北朝鮮に戻るよう約束せよと一方的な姿勢を示竣。そして、今、山内家の
長男、山内孝さんが記者会見を行おうとしています」

緊張感のみなぎる報道陣。孝がゆっくりと口を開いた。

「私は、私は、犯罪者です」

「それはどういう事ですか?」

報道陣が一斉に孝に詰め寄った。

「あの少年は、間違いなく家の息子です。しかし、私は、町役場の町長堀口氏と
共謀して、偽の住民票を作り、偽の内申書を出し、ある少年を我が子のように育
てました」

「大変だ。おじさんが捕まっちゃう」

山内家で、ニュースを観ていた山下茂雄(自称)は、急いで、家を飛び出した。
歩くこと数十分。

「ここに未来へ帰るための糸口が・・・」

そこに置かれたのは、お地蔵様だった。だが、そのお地蔵様がいつもより光って
見える。

「もしかして!この地面にタイムマシーンが埋まってるのかも」

山下茂雄(自称)は、うっそとした森の中をかき分けて、地面を手で掘った。
2時間経っただろうか。

「あった!あったぞー!!」

かき分ける事2時間。土で汚れたタイムマシーンをやっとの思いで見つけると、
山下茂雄(自称)は、歓喜にあふれていた。
タイムマシーンは、簡単な操作で動いた。
その頃、テレビでは、緊急記者会見、『山内孝の謎の犯罪、堀口氏の不正金、偽
内申書疑惑』が流れていた。
そんな事はおかまいなしに事件の重要参考人、山下茂雄(自称)は、

「これで未来に帰れる。それと同時に、俺が初めて、この土地を訪れる前の自分
に出会えれば、孝さんの事件はなかった事になるんだ」

早速、山下茂雄(自称)は、自分が記憶喪失の状態でこの土地を彷徨い歩いてい
た過去へとタイムスリップした。
吹雪の吹いていた1月の下旬。過去の自分が一人言を喋りながら、歩いていた時
へと遭遇した。

「うわっ!何だろう。僕は一体!?」

過去の自分がもう一人の自分が怪しげな機械の玉の中から、ゆっくりと出てくる
瞬間を捕らえた。

「おい。お前。俺がどこから来たか、分かるかい?未来だよ。さあ、君も出てき
たタイムマシーンに戻るんだ」

「君は、一体!?僕がもう一人!?何を言ってるの?」

「いいから、俺に協力するんだ」

嫌がるもう一人の自分を雪の中に埋もれていたタイムマシーンに乗っけて、

「さあ、君がやって来る前の時代に帰るんだ。スイッチを押すぞ!!」

こうして、過去の自分は、未来へと帰って行った。

「俺は、あいつがいないもっと先の未来に行かなくちゃ」

もう一つ彼がこの時代にやって来たタイムマシーンのボタンを操り、長い異次元
トンネルを旅した。

(しかし、何で昔の俺、言葉使いが穏やかなんだろう?僕だし・・・)

疑問を抱えたまま、山下茂雄(自称)は、未来へと旅立って行った。
山下茂雄(自称)がいなくなった世界でも、北朝鮮に拉致されていた俊彦のニュ
ースは、訪れる。しかし、その時代では、山下茂雄(自称)は、いないので、孝
の記者会見は、普通の拉致問題に治まった。しかし、先程の世界では、孝は、

「私は、私は、犯罪者です」

という内容で始まった記者会見は変わらない。しかし、これこそがパラレルワー
ルド。山下茂雄(自称)がいないこの世界では、何の事件の証拠にもならなかっ
た。その記者会見の翌日の新聞でその記者会見を知った山下家も堀口氏を訴えよ
うとしたが、何の証拠も得られず、孝の記者会見は、『謎の妄言を吐いた男』と
されていた。あんなに汚い男が逮捕されなかった不思議なこの世界には、もう一
人の山下茂雄は、存在しない。ただ、意味もなく過ぎ去ったこの事件は、山内俊
彦が山内家に戻って来たという記者会見で幕を閉じた。
ところが、山内俊彦は、北朝鮮によって、洗脳されていた。
山内家に馴染むには、相当の月日が要求される。
不思議な事に孝も香織も裕樹爺さんも静江婆さんもあの少年の事を覚えていた。

「こんな子だったら、いらないわ。あの少年は一体!?」

「そんな事言うんじゃない。俊彦が困るだろ!」

孝は、一瞬、香織を叱ったが、何故に妙に懐かしいあの少年の姿が頭の片隅にい
つまでも焼き付いていた。

続く



100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!