第3話:山内家の秘密

その夜、夫婦の寝室にて。

「ねえ、まさかあの子のこと、忘れた訳じゃないよね?」

眠れない孝に香織がそう質問した。

「俊彦のことか?」

「何でわざわざ芝居したの?」

「お母さんたちが聞いてるから」

「静江お母さんが・・・」

「家のお母さんも知ってるさ。行方不明になった俊彦のこと」

「だから、あの子の代わりに家にやってきたあの少年の名前を俊彦としたのね・
・・」

「そうだ。戸籍がなければ、住民票どころの問題じゃないからな」

「山内俊彦か・・・」

そうなのだ。山内家には子供がいた。というより、32歳と28歳の夫婦に子供
がいないこと自体、おかしい。それが、今、行方不明でいない山内俊彦なのだ。
つまり、孝は戸籍を作るためにあの記憶喪失の少年を俊彦としたのだ。戸籍がき
ちんとあれば、その行方不明になっている本当の山内俊彦の代わりに、あの少年
を住民票に登録できると孝は、きちんと考えていたのだ。
だが、しかし、その偽りは事実に矛盾している。
皆さんは、「公正証書原本不実記載罪」という罪をご存じだろうか。
町長がその罪を全く知らずに、住民票を書き換えるとは思えない。
この話には、何か裏がありそうだ。
孝と香織は、横になりながら、行方不明になっている本当の子供のことを思い出
している。

「あの子、もう亡くなったわよね」

「いや、それは・・・」

「あの事件もそのうち、時効になってしまうかも」

「どっかの国に拉致されてる可能性もあるな」

「北朝鮮みたく?」

孝はそう質問された時には、スヤスヤ眠ってしまっていた。
香織は、

「俊彦・・・か」

と一人言を呟きながら、天井を見つめていた。
明くる日、町長の堀口さんの特別な許可で、少年は、「山内俊彦」として、『山
形航空高校』の願書をもらってきた。堀口さんは、孝の話を信じて、東京の都立
新宿区第一中学に、

「山内俊彦という子がそちらの中学を卒業したことにしてくれないか」

と電話した。

「何故です。そんな事をして、ばれたら、あなたも私も捕まってしまいますよ」

「まあ、そこでだな・・・」

「100万でどうだ?」

と都立新宿区第一中学の校長と交渉した。

「お宅、何かたくらんでますね」

「まぁ、そういうことだ」

「いいでしょう。では、1週間以内に私の所に来てください」

堀口さんは、新幹線で次の日に都立新宿区第一中学の校長、佐藤さんに会った。

「いい話があるんだ。実はな・・・」

「お宅も悪よのう。なんちゃって」

「フハハハハ」

堀口のかん高い声は、校長室中に響いた。
おみやげと称したカステラの下には、100万円の札束が隠されていた。
それから、1週間後、孝は町役場で『偽山内俊彦』の内申書をもらってきた。

「本当にこんなことしていいんですか?」

「あんたも子供が欲しかったんだろう?別にたいしたことではないさ」

「それならいいんですが・・・」

「山内俊彦君のことを気にしてるのかね」

「えっ、俊彦のことですか?」

「俊彦君と言っても、山内さんの所に現にいるあの少年のことでなくて、お宅の
本当の子供のことだよ」

「あの子のことは、もう忘れました。俺たち夫婦ともども、もうあの事件の事は
忘れたいんです」

実の子供、『山内俊彦』は山内一家が山菜を採りに行ったとき、行方不明となっ
ていたのだ。山で遭難したのかもしれないが、実のところ、原因は不明だ。
警察にも届けを出した。だが、警察も諦めていた。それは、八甲田山で遭難した
かもしれないからだ。
「もしかしたら、生きているかもしれない」と希望を持った日もあったが、「マ
スコミに公表されたくないから」という孝と香織の願いで、この事件は迷宮入り
となっている。
それにしても、町長の堀口は一体、何を考えているのだろうか。
それは、孝も香織も、いや山内一家自体、疑問に思っている。
その事が、やがて大事件につながるとは知らずに・・・。
それから、俊彦は孝に山形航空高校に願書を出しに連れてってもらった。
俊彦が、孝に、

「いいの?勝手に内申書作って?」

「シーッ」

と俊彦の口をふさいだ。
何もかもが不明な俊彦、いや、この少年の謎。
そして、不気味な町長、堀口の陰謀。
俊彦(仮)は、どうなるのやら

続く



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