山形航空高校の入試日まで、いよいよ後1日となった。
(僕は、みんなにだまされているんじゃないだろうか?)
俊彦にとって、高校の入試などは問題じゃなかった。
「I don`t wonder if suspect everyone」
非常に流暢な英語を喋りながら、俊彦はノートをひきちぎって、メモを机に置い
た。
そして、部屋を出て行って、外を散歩した。
時は、2月の上旬だったが、山形のこの町はいつも雪が吹雪いている訳ではなか
った。だが、積雪が20センチ程あって、長靴を履いていなければ、とても雪の
中を歩いていけない。それでなくとも、この町は、農家の多い町で人口が少なか
ったのだから。俊彦は、コンビニまで歩いていって、わざわざカロリーメイトを
飲んだ。この雪の中、コンビニまで歩いていったのだから、温かいコーヒーでも
飲めばいいはずだ。
一方、孝は、俊彦の部屋の扉を叩いていた。

「コンコンコン。俊彦いるか?北海道産の石狩鍋がうまいぞ!」

「あれっ、いないのか?こんな時間にどこへ?」

「ん?机の上にメモがある」

「英語で書かれている。どれどれ」

「おーい!香織。これ、何だろう?」

大きな声で孝は、香織を呼んだ。

「なーに?」

階段を上がってくる香織。

「もう夕食だって、いうのに、あの子、どこ行ったの?まさかまた行方不明にな
るなんてことないわよね」

「それより、俊彦のこのメモが気になる」

「どれどれ。アイ、ドント、ワンダー、イフ、アイ、サスペクト、エブリワン」

「どう思う?」

「日本語だと、確か僕はみんなを疑っても不思議でないだったわよね」

「そう正解」

「何考えてるのかしら。明日、入試だっていうのに」

「俺、外見てくる」

孝は、家を出て、俊彦を探しに行った。

「俊彦。としひこー!!」

俊彦は、そんな心配をする孝と裏腹に一人、散歩から帰って来た。

「ピンポーン」

「はい、山内です」

「俊彦です」

「俊彦君?ちょっと、中入って!」

「おばさん、何、そんな怒った声で」

俊彦は、家の中へ入った。

「パシッ」

香織は、玄関で俊彦を平手打ちした。

「痛い。おばさん、何するの。僕は、ただ散歩に出掛けただけで・・・」

「お父さんが心配してたのよ」

「お、父さん?」

「そうよ。あなたは、もう家の子なんだから、心配かけちゃ、ダメじゃない」

「お父さん?お母さん?そう呼んでもいいの?」

「私は、ホント言うとまだ認めた訳じゃないけど、あなたの様子見てたら、家で
引き取ってもいいと、考えてた途中なのよ」

「ごめんなさい」

「お父さんにもそう言うのよ」

その日は、8時になって夕食となった。

「静江ばあさん、裕樹おじいさん、それにお父さん、お母さん」

「何だい。俊彦や」

静江ばあさんは、不思議に思わずそう言った。

「お前は、もう立派な家族の一員なんだぞ」

孝は、そう言う。

「お父さんって、ホントにそう呼んでいいの?」

「当たり前じゃないか」

「さっさと飯を食わんか。飯がまずくなる」

「あらまぁ、お父さんったら」

裕樹じいさんの一言で、一家に笑いがこだました。

2月14日、孝は、山形市内まで俊彦を車で送っていった。

「がんばるんだぞ。お前は、頭いいんだから。俊彦」

「うん」

「帰りの切符代渡しておくから、駅に着いたら電話するんだぞ」

こうして、山形航空高校の入試が始まった。

「えー、これから五教科試験を始めます。昼食は、英語と国語と理科の試験が終
わってからです。時間帯をここに記しておきます」

「それでは、国語の試験を開始いたします。私語、カンニングをした者はただち
に教室から出て行ってもらいます」

英語、国語、理科、数学、社会全ての試験に全問記述した。
山内俊彦と名前を書いた時だけ、違和感を感じ、腕の震えが止まらなかったが、
試験はうまくいった。
山形駅に着いて、俊彦は孝の携帯に電話した。

「試験どうだった?」

続く



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