第9話:俊彦現る!?

悲しき正体に自分が気づくと、ますます自分の事が分からなくなる。
俺は、一体、何者なのか?
どうしてこの世に自分と同じもう一人の自分がいるのか?
彼は、双子だったのか?
いや、それはおかしい。何故ならば、彼の姿は、本当の山下茂雄とDNAの配列
までもが同じで、本当の山下茂雄の事もまだ分からないからだ。
つまり、彼は、西洋でいうドッペルゲンカーなのかもしれないが・・・。
山下哲郎は、おそるおそる玄関のドアを開けた。

「信じられん!?」

山下哲郎は、別にその瞬間に恐怖など覚えなかった。山下茂雄と同じ人間がこの
世に存在しても、不思議ではない。だが、山下哲郎は、彼が未来からやって来た
のではないだろうかという事かどうか半信半疑で信じていたからだ。だから、か
えって彼の正体が信じられなくなる。

「君、とりあえず、あがりたまえ。話を聞こうじゃないか」

彼は、何が何だか分からぬまま、山下家にあがった。

「うわーっ!!親父、何考えてんだよ。こんな得体の知れない奴、あがらせて」

「彼に興味がある」

「ドッペルゲンカーだったら、俺は死ぬんだぜ」

その時、彼は、デジャブの様にこの会話が蘇ってきた。

(この光景見た事ある!?)

「すいません。親父じゃなかった、山下哲郎さん。俺は、もしかして未来からや
って来たという話を信じてもらえますか?」

「信じられん訳じゃないが、それじゃ、まるで映画だ。だが、君が仮にもしそう
だとしても、家のプライバシーやプライベートな事まで知ってるのは、うかがわ
しい」

「おい!お前、家の財産目当てじゃないんだろうな」

本物の山下茂雄は、その失礼な態度を何も無礼とは思っていなかった。

「君には、興味がある。家の会社の、もう存じてはいるかと思うが、山下プロジ
ェクトの知り合いに、遺伝子の研究をしている博士がいて、君の事を色々と研究
させてほしい」

彼は、その瞬間、悲しみなどふっとんだ。自分の親父かもしれない人がこんな事
を考えていると思うと怒りが込み上げてくる。

「冗談じゃねえぜ!」

バンっと、彼は用意されたお茶を机から振動で動かした。
ガチャンとコップが割れる。山下哲郎の顔に焦りの表情が見える。

「言ってはならない事だけど、これだけは言っておく。俺は、本当に山下茂雄だ。
そこにいる奴が何者か知らないが、俺は、山内家で山内孝さんと山内香織さんに
お世話になって、しかも、町長の堀口が住民票を山内俊彦として、勝手に登録し
ている。内申書も都立新宿区第一中学を卒業したという偽の内申書まで作ってい
る。警察に告発するかどうかは、お宅の自由だ。仮の親父!!」

「ふむ。山下茂雄と同じ内申書を違う名前で使ってる可能性があるな。堀口め!!


山下哲郎に怒りの表情がちらりと見える。感情の起伏の激しい人だ。

「とりあえず、自分の正体が何となく分かってきたんで、これで失礼する!」

彼は、とめる山下哲郎と「何だ。あいつ」と思っている山下茂雄を後にして、自
分の家を知ってるかの様に玄関を出て行った。
これから行き場所がない。彼は、とりあえず、21000円の新宿のホテルに泊
まった。
後、およそ64630円持っている。訳をおじさんに話そう。とりあえず、話は
それからだ。
翌日、彼は、朝10時に新宿を発った。その日は、土曜日。午前11時辺りの新
幹線に乗り、携帯で孝と連絡を取る。

「もしもし、おじさん?」

「ああ、俺だ」

「実は・・・」

「ええーっ!!君は、未来から来て、山下茂雄はもう一人いるって?」

「そうなんだ。信じられないかもしれないけど、そうなんだ。ついでに堀口さん
の犯罪の事や内申書勝手に作っちゃった事全部話しちゃった。ごめん」

「いや、覚悟はできてるからいいよ。それにしても、未来から来たとはねー!!
どうりで天才の訳だ」

「その事なんだけど・・・」

「まあいい。全ては、君が帰ってきてから、話そうよ」

「おう!」

山形駅に着いたのは、丁度2時半。それから、待ち合わせをしていた孝の車に乗
り、結局、4時半に山内家に着いた。

「あら、お帰り」

「何じゃ、もう戻って来たのか」

相変わらず、のんびりした静江婆さんに裕樹爺さん。そして、山内家。だが、の
んびりしてる場合でない。緊急事態だ。
ダイビングルームで焼き肉を食いながら、全ての事情を家族に話した。香織だけ、
食欲がない。

「あんたの話、全て信用できる訳ないけど、とりあえず、帰って来てよかったか
な?でも、孝、逮捕されちゃうんだ・・・」

「大丈夫。俺が未来から来た事を証明すれば。かなり、長い裁判になりそうだけ
ど、逆転裁判も可能だよ」

「そんなうまく行く訳ないでしょ!」

その時、テレビにある重大なニュースが流れた。

「ええ、本日未明、北朝鮮に拉致された少年が北朝鮮で見つかりました。平泉首
相は、この事実を外務省に確認。この少年は、自らの事を山内俊彦と名乗ってお
ります」

香織と孝は、そのニュースに驚愕の事実を覚えた。

「孝。どうする?」

「俊彦かもしれない。とりあえず、明日のニュースを待とう」

その次の日の日曜日、マスコミから、電話があり、山内家は記者会見を行う事に
なった。
山内家の運命は?堀口の逮捕は?そして、山下家はどうなるのやら・・・

続く



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